「遊戯王の本物が出るぞ!」
偽物とはバンダイ版の事で、これはこれで酷い言われようだが、ともかくより洗練された遊戯王カードが出るらしい。なんといっても意味は分からないがオフィシャルというカッコイイ名前が付いている。光り方も綺麗だし、パックで販売されていることもくじ引き感があって楽しい。1パック150円。ちょっと高い。同じ時期にシールも売られていて、最初は間違えてそれを買った。この黒い目玉模様の袋はなんだ?たっけぇ。
というわけで遊戯王OCGは鮮烈にデビューした。自分が小学生の頃だ。同年代の方はポケモンのセレクトバグの事を思い出して欲しいが、この頃はネットもないのに噂話が県をまたいで飛び交っていた。それで、遊戯王カードの主流は一瞬にしてOCGになった。
この頃の遊戯王パックは今考えると相当コレクション要素が強めなもので、まともな試合は出来そうになかった。生贄召喚はもうちょっと後のことで、とにかく攻撃力が高いモンスターが正義。装備を付けてもバランスが取れるようなものではない。
とはいえ、そんなことは小学生には関係がなかった。もしかしたらカプモンの影響もあったかもしれない、ポケモンが流行っていたことでモンスターを扱う姿に自己投影することに慣れていたのかもしれない。薄茶色のモンスター達はどんなカードでも魅力的だった。光っていれば尚嬉しい。とはいえ、最強は何かと聞かれれば、答えは決まっていた。《青眼の白龍》である。当たり前だ、海馬が使ってんだぞ。
実際この頃の《青眼の白龍》はまごうことなき最強であった。攻撃力3000が生贄もなく突如として降り立つ暴力は、生半可なパワーでは返せない。これが2枚、3枚、いやあったら4枚!入れれば自分が最強になれるのだ。
そういう訳で、学校に来ての話題と来れば「スターターを買ったか」だった。さっき2枚だの3枚だの言っていたがそれは妄想である。親が同じものを2つ買ってくれるハズもないのだ。だから平等に皆1枚ずつ。皆、俺の青眼の方がお前の青眼より強いと思っている。《山》使ってないってマジ?
そうこうしている内に、どっかのボンボンが2枚目の青眼を自慢げに見せ、この暗黙の了解はなすすべなく破綻するのである。《青眼の白龍》はデッキに1枚しか入れちゃいけないらしいよ。
自分も使っていてなんだが、あまりにズルいカードだ。強すぎる。これにはデュエリスト達も早急に対応する必要があるだろう。遊戯王ではなんとアンティルールもあるというではないか。勝たなければ公園のベンチで泣きを見るのは自分だ。では自分の砂にまみれた青眼を活躍させ、相手の青眼を倒すにはどうすればいいか。そこで白羽の矢が立ったのが、地割れ、ブラックホール、サンダーボルトだった。
パック物で光ってるらしい地割れとブラホは持ってたらズルいが、サンダーボルトは全員の味方だ。なんといっても、このよく分からない雷のカードはスターターに入っている。何となく癪だが、このカードはブルーアイズをやっつけられるらしい。上手くいけば挟み撃ちも強いかもしれない。サンダーボルトはいつ打っても強いが、あまりに打つのを遅らせると自分がやられるかもしれない。挟み撃ちを打つ為には青眼が出るまでは勝っている必要がある。装備カードを付けて脅してやろうか。攻撃力の高いモンスターはなんだ?守備2000あるホーリーエルフ強くね?このようにして最初期の遊戯王の所謂メタは回っていた。事実上破綻していたゲーム性は、小学生の懐事情によって絶妙に担保されていたのだ。
これは、今考えると相当やり手だったと思う。そもそも《青眼の白龍》は遊戯王屈指の人気モンスターで、誰もが欲しがるカードだった。これをパックの目玉にするでもなく、出し惜しみするでもなく、Vol1のブラックマジシャンや暗黒騎士ガイヤが見劣りするような状況で、スターターに収録したのだ。誰もがスターターを買い、誰もが《青眼の白龍》vs《サンダー・ボルト》というゲーム構成に自然に入っていった。そしてさらに強いカードを求め、小遣いをせびり、パックで一喜一憂して、挙句サーチまでして(今でいうサーチではない。良い子は真似してはならない)、遂に巨大化にまで行きつく。マハーヴァイロが強すぎるが?
そういう流れに持って行った最大要因は、《青眼の白龍》を誰もが持てる状況にこそあったのではないだろうか。
あの《青眼の白龍》のスターター収録は相当な冒険で、これが成功したからこそ、遊戯王OCGは後に爆発的に流行したのではないだろうか。《青眼の白龍》は、誰にとっても最強のしもべで、最凶の敵だった。だから誰もが海馬だったし、誰もが遊戯だった。それが遊戯王OCG黎明期の話である。